Vol.21-Vol.40

院外報Vol.28

頭をぶつけた後に起こる病気《慢性硬膜下血腫》

頭をぶつけた後に起こる病気《慢性硬膜下血腫》

どんな病気なの?
頭部打撲から1~3カ月の後に頭の中に出血が起こることがあります。
頭の骨(頭蓋骨)のすぐ内側には硬膜と呼ばれる膜がありますが、この硬膜の内側にじわじわと出血が起こって血液(血腫)がたまった状態を慢性硬膜下血腫といいます。通常、慢性硬膜下血腫は硬膜の下の内膜・外膜と呼ばれる2枚の膜状の組織(被膜)に取り囲まれており、血管に富んだ外膜からの繰り返す出血によりゆっくりと増大する特徴を有しています。
また、明らかな頭部外傷がなく原因を特定できない場合もあります。一般に「中高年者」「お酒の好きな方」の男性に多く、脳が萎縮していたり、何度も頭を打撲する人にできやすいといえます。

症状 と 特徴
多くは何となく様子がおかしい、ぼんやりしている時間が多い、眠りがちになった、活動性が低下したなどの症状で始まり、徐々に頭痛、吐き気などの症状が現れます。症状は更に進行し運動麻痺、言語障害、尿便失禁を来たし、記憶障害や痴呆様症状が前面に出てくることも少なくありません。

事例1:50歳、男性
酒好きの方で、以前から泥酔しては転倒することが多かった。
2週前から頭痛を自覚するようになり、前日より左上下肢の脱力が出現したため来院された。
MRI施行の結果、向かって左側にたまった血腫(白く見える部分)のために、大脳が圧迫され、脳のしわがよく見えません。
本来左右対称にあるべき脳室も右側へ大きく偏位しています。
即日入院し、穿頭血腫洗浄除去術を施行。
手術により血腫が除去され、圧迫が解消されたため、大脳が元に戻ろうとしているのがわかります。
1週間後には抜糸を行い、後遺症なく退院されました。

事例2:81歳、男性
2ヶ月前に凍った路面で転倒し後頭部を打撲。徐々に活動性の低下、歩行障害を来たし来院された。
この方は、MRIでは両側に血腫がたまってしまい、左右から大脳が圧迫されています。これを「両側性慢性硬膜下血腫」といいます。
この場合も、左右にて血腫を除去する手術を施行し、術後も順調に経過し後遺症なく退院されました。

手術方法 : 穿頭血腫除去術
通常は局所麻酔下に穿頭術を行います。穿頭術というのは、2~3cmの皮膚切開を設け、その直下の頭蓋骨に約1.5cm径の穴をあけることであり、その穴から硬膜と外膜を切開し、被膜に囲まれた血腫を除去します。
外膜を切開すると、黒褐色の液状の血腫が勢いよく噴出します。生理食塩水を用いて十分に被膜内の血腫を洗浄除去した後、ドレナージ用のチューブを挿入し、残った血腫を術後に流出させます。
このように脳に直接触れることのない安全な手術により、慢性硬膜下血腫は後遺症なく治る可能性の高い病気です。手術時間は約30分。約1週間後に抜糸を行い退院となります。殆んどは一回の手術で治りますが、脳萎縮が強い方では血腫が再発することもあり(5~10%)、その場合には再手術が必要となります。再手術も原則として同じ手術操作を行いますが、再発を何度も繰り返す場合には、開頭手術を要することもあります。
①頭蓋骨を露出。
②穿頭し、硬膜を切開。半透明の外膜が見える。
③外膜を切開。
血腫が勢いよく噴出したところ。
④血腫洗浄後に、血腫腔にドレーンを1本留置。

冬期間は足元が滑りやすく、転倒して頭を強くぶつけることが多くなります。時には「脳挫傷」や「急性硬膜下血腫」など後遺症を残すような重篤な病態を招く場合もありますので、注意して下さい。

関連コラム

作品ギャラリー

DSC01874_600400_small
DSC01833_600400_small
DSC01794_600400_small
DSC01789_600400_small
previous arrow
next arrow